マクドナルド、AI生成クリスマスCMを撤回 技術とブランドの「本物らしさ」を巡る論争

オランダのマクドナルドが、すべての映像を生成AIで制作したクリスマスCM「It’s the most terrible time of the year」を公開後すぐに撤回しました。SNSでの強い否定的反応とコメント欄の閉鎖を余儀なくされたこの事例は、AI広告の美的完成度や倫理的正当性、そしてブランドの「本物らしさ」を巡る新たな論争を浮き彫りにしています。
何が起きたのか
オランダのマクドナルドは、2024年末にクリスマスキャンペーン用のCMを公開しました。このCMは、タイトル通り「It’s the most terrible time of the year」と皮肉を込めて命名され、サンタクロースが絡む渋滞や、手に負えない家族、逆らうクリスマスツリーなど、年末の「地獄」を描きながら、「少なくともマクドナルドはある」というメッセージを伝える内容でした。
問題は、このCMの映像がすべて生成AIで作成された点です。公開直後、SNSを中心に強い否定的反応が殺到し、マクドナルドはCMをYouTubeなどから撤回し、自社SNSのコメント欄も一時的に閉鎖する事態に至りました。関連報道では、「マクドナルド、AI生成クリスマスCMをYouTubeから撤回」と伝えられています。
問題の核心:美しさと倫理
このCMに対する批判は、主に2つの側面から出ています。
- 美的・技術的側面:映像の人物の身体や顔が不気味で不自然、表情が乏しく、AI特有の「エラスティックな暴力」とサレリズムが極端に強調されたユーモアが不快感を生んでいると指摘されています。関連記事では、「AIブランド広告の新たな低地」と評されています。
- 倫理的・人的側面:制作に人間のクリエイターをほとんど使わず、大量・高速なコンテンツ生成を優先する姿勢が、広告業界の「人間的資本」を軽視していると批判されています。これは、コストと効率を重視するあまり、倫理やクリエイティブの価値が損なわれているという疑問を呼び起こしています。
ある分析では、「企業が行っている実験の最初のステップ」であり、一般の拒絶反応が弱まれば、企業はこの手法を一気に拡大するだろうと指摘しています。
誰が制作したのか
このCMは、カリフォルニアのクリエイティブチームMAMA(Mark PotokaとMatt Starr Spice)と、スタジオThe SweetshopのAI部門The Gardening.clubが制作を担当しました。
当初、監督たちは自身の投稿でこの作品を擁護し、「7週間の激しい作業」を要し、「従来の制作よりも多くの時間を費やした」と説明。その中心的な主張は、「AIが作ったのではない。我々が作った」というものでした。
コカ・コーラとの類似した論争
マクドナルドの事例は、2024年末にコカ・コーラが引き起こしたAI広告論争の延長線上にあります。コカ・コーラは、1995年の象徴的なCM「Holidays Are Coming」をリメイクし、今度は生成AIで制作したCMを公開しました。このCMでは、動物たちが登場する一方、2024年に公開された「人間」が登場するAI版CMは、技術的に不自然な点が目立ち、否定的な反応を受けていました。
コカ・コーラは、Secret Level、Silverside AI、Wild Cardの3つの専門スタジオに制作を依頼しましたが、一般と批評の反応は「破壊的」なものでした。元コカ・コーラのブランドマネジメント担当者であるTim Halloran氏は、「これはコカ・コーラのブランド約束の違反だ」と指摘し、同ブランドの核である「本物らしさ(authenticity)」が損なわれていると述べています。
トイザらスもAI広告に挑戦
コカ・コーラのCMより前の2024年6月、トイザらスは、OpenAIのテキストから動画を生成するツールSoraを使って「世界初のSora商用CM」を発表しました。1分間のCMは、創業者チャールズ・ラザラスの少年時代と、マスコットのジラファのジーフリーを、完全に合成された映像で描いています。
このCMに対する業界の反応は、「ほぼ一致して否定的」なものでした。監督のJoe Russo氏はX(旧Twitter)で、「クソみたいなCMだ」と投稿しています。ブランドの認知調査を行うMarketing-Interactiveの分析では、視聴者の53.4%が否定的な反応を示していることが明らかになっています。
「本物らしさ」の問題
これらのCMに対する否定的反応の背景には、技術的な不完全さ以上の、より深い問題があります。2024年12月、NielsenIQが発表した調査では、生成AIで作られた広告を視聴者がどのように認知しているかが明らかになっています。
その結果、消費者は技術的に完成度が高い場合でも、AI生成コンテンツを「不快」「退屈」「混乱する」と体系的に評価していました。この調査は、AI広告が単なる技術的課題ではなく、消費者の認知と感情に根本的な影響を与えていることを示しています。
ウィスコンシン大学マディソン校のNeeraj Arora教授は、「祝祭はつながり、コミュニティ、家族との再会の時間であり、それが祝日の本質だ」と指摘。その上で、「AIを混ぜると、祝日の雰囲気に合わないだけでなく、コカ・コーラというブランドが意味するものとも合わない」と語っています。クリスマスという「感情的な本物らしさ」が求められる場所で、AIの「合成された本物らしさ」が正面衝突しているのです。
矛盾した結果と今後の課題
マクドナルドとコカ・コーラの事例は、ある矛盾した現実を浮き彫りにしています。生成AIは、制作スピードとコスト削減という点で大きな利点を約束していますが、それによって視聴者との感情的なつながりを失うリスクがあるということです。
消費者は、「急速に合成コンテンツを見抜く能力を高めている」とされ、その反応は即座に否定的になります。企業は、AIによる効率化と、ブランドの「本物らしさ」や「感情的価値」の維持という、難しいバランスを取らざるを得ない状況にあります。





