AIの水消費問題:誇張された数字と真実

AIのブームは多くの議論を呼んでいますが、特に社会に深く根付いた問題の一つが環境への影響、特にAIサーバーの冷却に必要な水の消費です。この問題は現実的ですが、一部の数字は誇張されており、その原因は有名な書籍での計算ミスにあるようです。

「Empire of AI」と水消費の主張

『Empire of AI』という本で、著者のKaren Hao氏はOpenAIやそのCEO Sam Altman氏に対する批判を展開しています。その中で、AIデータセンターの水消費量について「88,000人の都市の1,000倍もの水を消費する」という主張をしています。この数字は多くのメディアや議論で引用され、AIの環境負荷を象徴するものとされてきました。

批判と計算ミスの指摘

しかし、Andy Masley氏のニュースレター『The Weird Turn Pro』では、この数字が大きく誤っていると指摘されています。Masley氏の計算によると、実際の水消費量は都市の22%程度、または市全体の3%程度に過ぎないとのこと。また、Hao氏は「水の抽出(一時的に取り出して再利用)」と「実際の消費」を混同していた可能性があるとされています。

計算ミスの原因

Hao氏自身もMasley氏の記事に反応し、SMAPA(チリの水道局)に水消費量のデータを問い合わせた際、単位がリットルではなく立方メートルで回答されていた可能性があると述べています。この単位の違いが、数字の大きなズレの原因だったようです。Hao氏は再度SMAPAに確認を求めており、誤りがあった可能性が高いとされています。

AIの水消費に関する最新の推定

AIの水消費量は近年、繰り返し議論されてきました。2024年9月に『Washington Post』が発表した研究では、ChatGPTで100語の文章を生成するのに519ミリリットルの水が必要とされています。この数字は、データセンター全体の年間消費量と冷却方法を考慮して算出されています。

企業の水消費データ

AI企業はデータセンターの水やエネルギー消費について透明性が低いのが現状です。大手テクノロジー企業はサステナビリティレポートで年間消費量を公表していますが、個別の検索やAI利用ごとの消費量までは明確ではありません。GoogleはGeminiの1回の問い合わせあたり0.26ミリリットル(約5滴)の水消費と発表しており、これも他の企業やデータセンターにそのまま当てはまるわけではありませんが、従来の推定値が誇張されていた可能性が示されています。

水問題の現実と今後の課題

とはいえ、AIと水の問題が完全に解決したわけではありません。チリのCerrillosにあるデータセンターは、地域の干ばつ状況や環境への影響を理由に司法によって建設が中止されました。データセンターの冷却には大量の水が必要であり、海中にデータセンターを沈めて冷却する試みも始まっています。

エネルギー消費というもう一つの問題

水の問題に加えて、データセンターのエネルギー消費も深刻です。2024年時点で、米国のデータセンターは全電力消費の4%を占めています。一部地域では電気料金が数年で267%も上昇しており、大手テック企業は原子力発電の建設や宇宙へのデータセンター移転まで検討しています。AIの発展は、環境とインフラに新たな課題を突きつけています。

Anzai Hotaka

10 年の経験を持つコンピュータ エンジニア。Linux コンピュータ システム管理者、Web プログラマー、システム エンジニア。