中国、STEM博士教育を実践重視へ転換し技術競争力強化

中国は、長年にわたる技術人材育成戦略の一環として、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の博士課程教育を大幅に改革しました。従来の理論中心の博士論文提出から、実際の製品やシステム開発成果による学位取得を可能にする新制度を導入し、技術革新のスピードアップを図っています。

博士課程の新制度:理論から実践へ

中国のハルビン工業大学をはじめとする主要大学が、STEM分野の博士課程学生に対して、従来の博士論文提出に代えて、実際の製品やシステム開発の成果で学位を取得できる制度を導入しました。この変更は、South China Morning Postが報じています。

従来の博士号(PhD)取得には、理論的な研究をまとめた博士論文の提出が必須でした。しかし、新制度では、実用的な技術開発や製品化の成果が評価対象となります。これにより、学生は理論だけでなく、産業界で即戦力となるスキルを身につけられるようになります。

初の実践型博士号取得者

2025年9月、Wei Lianfeng氏が中国で初めて、実践成果に基づいて博士号を取得しました。彼は2008年に卒業後、中国原子力研究所で10年以上勤務し、その後博士課程に復帰。真空環境下でのレーザー溶接システムの開発実績により、博士号を授与されました。学位審査には、産業界の専門家も参加し、実用性と技術的価値を評価しました。

STEM教育強化の背景と重要性

中国は数十年にわたり、技術人材の育成を国家戦略の柱としてきました。特に近年は、米国による半導体や量子コンピューティングなどの技術輸出規制に対応するため、2022年にSTEM教育強化プログラムを発表しています。このプログラムでは、企業と大学の連携による共同教育が重視されています。

今回の博士課程改革は、理論だけでは技術競争に勝てないという認識の表れです。米国の技術規制により、中国は高度な技術人材の育成スピードをさらに加速させる必要に迫られています。実践型博士号制度は、数百ページの論文ではなく、即戦力となる技術開発人材を短期間で輩出するための施策です。

STEM人材の量的拡大

中国のSTEM人材育成は、ポスト・マオ時代から続く長期戦略です。2023年のデータによると、中国は51,000人のSTEM分野博士号を授与し、米国(34,000人)を大きく上回っています。2025年には、77,000人に達する見込みです。

STEM分野の卒業生総数も、2020年時点で357万人と、インド(255万人)米国(82.2万人)を大きく上回っています。現在では、580万人のSTEM卒業生がおり、全卒業生の40%以上がSTEM分野を選んでいるとされています。

  • 2023年STEM博士号取得者数:中国 51,000人、米国 34,000人
  • 2025年予測STEM博士号取得者数:中国 77,000人
  • 2020年STEM卒業生総数:中国 357万人、インド 255万人、米国 82.2万人
  • 現在のSTEM卒業生総数:中国 580万人

今後の展望

中国の実践型博士課程制度は、技術革新のスピードアップ産業界との連携強化を目的としています。米国や欧州の技術規制に対抗し、自国で高度な技術人材を育成することで、グローバルな技術競争で優位に立つことを目指しています。

この動きは、シリコンバレーの技術者たちにも影響を与え、太平洋を越えた人材の流れが加速する可能性があります。

Anzai Hotaka

10 年の経験を持つコンピュータ エンジニア。Linux コンピュータ システム管理者、Web プログラマー、システム エンジニア。